この記事を読んで頂いてありがとうございます。
今回は、主に、スポーツやストレスが、食道や胃、十二指腸(上部消化管)に与える影響について考察させて頂きます。
スポーツと消化管。実はとても深く関係していますが、なかなか筋肉や心肺機能などに比べると、意識されない部分です。
以前に同様の内容のセミナーをさせて頂き、ご覧頂いた方もいらっしゃるでしょうか。誠にありがとうございました。今回の記事では、内容を少し増やして、セミナー内ではお話できなかった内容についても言及させて頂きたいと思います。
ちなみにセミナーをさせていただいた「Spolink」に関しては、以前記事にさせていただいていますので、参考にして頂き、ご協力頂けますと幸いです。
ちなみに今回の記事には、基本的な内容も含まれますので、解剖などご理解頂いている方は読み飛ばして頂いて構いません。下の「もくじ」より、気になる項目をクリックしていただけますと幸いです。
もくじ
まずは簡単に解剖の説明です。
今回は食道・胃・十二指腸といった、「上部消化管」という部位に焦点を当てます。

皆様大体この辺りの解剖はご存知かと思うのですが、念のためご提示させて頂きます。
食道→胃→十二指腸の順でつながり、胃には胃酸が存在する。
こういった基本的な内容、また、上の写真を見て、大体の構造が分かっていただければ、今回の内容はおおよそご理解いただけるかと思います。
では、スポーツによる上部消化管の不調、例えばどういう症状が出るのか、どういったことが原因として考えられるのか、など、その内容について、ここからまとめさせて頂きます。
訴えの多い症状はどういうものがあるのか?
スポーツ、またスポーツによる強い負荷や、日常生活によるストレスが原因で、上部消化管に何らかの不調が起こるわけですが、大体の症状は以下のものが多いと考えられます。
腹痛、腹部の違和感、吐き気、嘔吐、重症化すれば吐血、比較的稀かもしれませんが、のどの痛み、違和感など。
アスリートのみならず、一般の人でもよく訴えるような症状かと思います。
しかし、これはある意味当然のことではないかと思います。
アスリートであろうと一般の方であろうと、内臓の作りは同じですので、一般の方々にものすごいストレスがかかった時と同じような症状が出る、つまり、訴える消化管の不調の症状は同じ、そう思って頂いて良いのではないでしょうか。
前置きが長くなり申し訳ありませんが、ここから具体的な内容に入らせて頂きます。もしかすると、聞き慣れない病名などが出てくるかもしれませんので、その都度出典などは、なるべく明記させて頂こうと思います。
スポーツによる「虚血」が招く不調
まずは、不調を招く原因の①として、「虚血」に焦点を当てたいと思います。
どの程度の負荷が、不調を招くのか?
ある程度強い負荷がかかった場合には、その負荷の強さに応じて血流障害が生じると考えられます。
では、実際にどの程度の負荷で血流障害が生じ、どのような不調が出るのでしょうか。
ですので、強い負荷がかかった後に調子が悪くなるという方は、血流の問題が関係している可能性もあります。
では対策は何かあるのでしょうか。そう疑問に思われるかもしれません。
対策に関しては、次の問題点の解説の後に合わせてご提案させて頂きます。
スポーツによる「逆流」が招く不調
虚血に続きまして、不調を招く原因の②として「逆流」に関して焦点を当てていきます。
「逆流性食道炎」というご病気をご存知でしょうか。

この図に記されているように、胃から食道に胃酸が逆流することにより、食道と胃のつなぎ目に炎症が起きる病気になります。
どの程度の負荷で起こりうるのか?
では、どの程度の負荷でそういったことが起きることがあるのでしょうか。
本来であれば喫煙や飲酒を多くされる方、肥満の方などが多く発症されるものですが、そういったこととは無縁そうな、負荷を強くかけるアスリートも発症することがあるというのは、覚えておいて頂いても良いかもしれません。
逆流性食道炎の症状は、吐き気、嘔吐、呑酸(酸が上がってくる感じ)、腹部不快感など、多岐にわたります。
もしかすると、「虚血」だけではなく、実際に目に見える形で「逆流による炎症」が起こることによって不調が生じている可能性もあります。
逆流性食道炎の実際の写真を見てみましょう。
実際に逆流性食道炎の写真を掲載してあるHPより拝借させて頂きました。

これはちょうど食道と胃の境目のところの写真(逆流性食道炎が最も起きるところ)なのですが、グレードD(重症)は見るからに炎症が酷くて痛そうではないでしょうか。
対策や改善策はあるのか?
対策に関しては、今回の「逆流」だけではなく、一つ前の「虚血」とも共通する点がいくつかあります。
対策を列挙させていただくと
①まずは当然ですが、脱水を避けること。負荷をかける前の水分補給、また前後の体重測定をしっかり行い、脱水の評価を怠らないことが大切です。
②「練習前の液体栄養剤の補給により虚血の改善がみられた」という報告も見られます。練習前に栄養補給を行うことで、改善が見られることもあるかもしれません。
③練習直後の栄養補給が大切なのはもちろんなのですが、それによる腹痛や下痢を訴える方もいます。練習直後はまずは脱水の補正をしっかり行い、ある程度心拍が落ち着いてから栄養補給を行う、というのもありだと考えます。
④症状が強い場合には、実際に炎症が生じてしまっている場合もあります。その際は胃酸を抑える薬を試してみるのもありだと思います。市販薬もありますが、適切に評価し、改善を行うためにも、医師の診察を受けることをお勧めします。
こういった内容が、基本的な対策、改善策になるかと思います。
スポーツによる「ストレス」が招く不調
虚血、逆流に続きまして、不調を招く原因の③として「ストレス」に関して焦点を当てていきます。
ご紹介させて頂くのは「機能性ディスペプシア」という病気になります。
こちらに関しても上手くまとまっているものを掲載させて頂きます。

この病気に関しては、この病気の診断をつける、というよりは、はっきりした原因がなく、調べても異常が見つからないので、おそらくこの病気、といった形になることがほとんどです。
日々強いストレスにさらされるアスリートにとっては、そういったストレスが原因で、お腹の不調を訴えるということも考えられます。
また、オーバートレーニング症候群の症状の一部の可能性もあるのではないかと考えられますので、比較的症状が強い場合には、やはりしっかり介入する必要があり、専門家に相談して頂くのが良いかと思います。
スポーツによる「鎮痛剤」が招く不調
最後に、色々な問題を引き起こすことがある「鎮痛剤」について考察したいと思います。
実は、鎮痛剤は痛みをとることは間違いないのですが、痛みの原因になってしまうこともあります。
鎮痛剤はどのように痛みを引き越すのか?
鎮痛剤が痛みの原因となるものとして、胃潰瘍、十二指腸潰瘍といった病気があります。
特に有名な鎮痛剤として「ロキソニン」が挙げられ、ご存知の方、使ったことがある方も多数いらっしゃると思いますが、本当に注意が必要な薬です。
では、実際の写真をみてみましょう。

とても深く胃がえぐれているのがお分かりいただけるかと思いますが、「ロキソニン」を2週間程度飲んだだけでも、こういった胃潰瘍ができてしまった方も今までにいらっしゃいました。
こいった形で、薬、虚血など、ただの不調だけではなく、実際に胃潰瘍などの病気を発症され、それによる痛みや症状が出ている場合もあります。
日々の練習やトレーニング、試合を含め、アスリートの周囲には不調を招く要因となるものがたくさんありますので、細心の注意を払って頂きたいと思います。
「不調」への具体的なアプローチ方法は?
ここからは私見になりますが、消化器系の不調を訴えてくる患者さんが来られた時に、どういう風にアプローチをするか、考察させて頂きます。
ただ、問診や症状から原因を探るというのはどの医療職も共通だと思いますので、どういったことを考えて投薬をするか、ということメインで考察させて頂こうと思います。
使える薬は大まかに数種類ある
医師が保険診療内で処方できる薬は、大まかに数種類あります。
①胃酸の分泌を抑えて胃を守る薬。
②胃をもともと守っている成分を増やして胃を守る薬。
③直接胃の表面に貼りつくことで胃を守る薬。
④胃の動きを良くする成分を増加させることで胃の動きを正常化させる薬。
この薬の中でもどういった使い方があるかと言いますと
このあたりは、ドクターごと、また内科系医師、外科系医師で処方の感覚が異なるかもしれませんが、どの薬が第一選択になるのかに関しては厳密な決まりはないと思います。
なので、信頼のおける医師や医療スタッフとしっかり相談の上、どのように対応していくのか決めて頂くのが良いのではないかと思います。
ピロリ菌感染のことも忘れずに
少し長くなりました。申し訳ありません。
最後に、ピロリ菌に関してまとめさせてください。
ピロリ菌は、胃に慢性的に住み着き、悪さをする菌です。

スポーツに関連することとしては、ピロリ菌感染があると、鉄の吸収が阻害され、隠れたスポーツ貧血の原因になると言われています。
ピロリ菌感染に関しては、血液検査でわかりますし(できれば胃カメラを受けて欲しい気持ちはありますが)、今は飲み薬で除菌もできます。
アスリートに限らず、スタッフの方に関しても、ピロリ菌感染に関してはご周知いただけると、大変嬉しく思います。
最後に
今回は、スポーツと消化管、主に食道・胃・十二指腸を中心にまとめさせて頂きました。
消化器の不調は原因が多岐にわたり、個人差も大きいですので、アプローチが難しいことが多いかと思います。
そんな時は、是非、医師など専門家への相談を迷わないで欲しいと思います。