スポーツと消化管コンディショニング【小腸編】

 

この記事を読んで頂いてありがとうございます。

今回はスポーツにおける小腸への影響について考察します。

小腸や大腸(次回の記事でまとめます)が影響を受けた場合、以下のような症状が出る場合があります。

●試合前に緊張してお腹が痛くなり頻回にトイレに行かないといけなくて困っている。

●負荷の強い運動をした後食事を取るとすぐに下痢をしてしまう。

●遠征などに行くと排便コントロールがうまくいかなくなる。

こういった相談を今まで受けたことがありますし私自身も実際にそうでした。

 

実際に今医師として勤めている中で「あの時こうしとけばよかったな」であったり「こういう方法試す手もあったのか」と思うことが多々あります。

 

スポーツによる腸への影響はあまり意識されませんが、時に非常に怖い事態を引き起こすこともあります。

 

また「ただプレッシャーに弱いだけ」「体質的に弱いだけ」といった理由で片付けられてしまうことも多い腹痛や下痢なども、実は病気が隠れていることもあります。

 

スポーツは腸に対してどういった影響があるのか、また、スポーツと関連する病気としてどういったものがあるのか、あまりご存じない方もいらっしゃるかと思いますので、まず今回は、スポーツに関連する小腸の疾患、また対処法についてまとめさせて頂きます。

 

この記事は腸の内容が中心となりますが、スポーツによる食道や胃への影響に関しては、以前記事にしておりますので、ご一読いただけますと幸いです。

スポーツと上部消化管コンディショニング

2020年5月30日

また、今回は小腸メインにまとめさせて頂き、大腸編はまた別にまとめさせて頂きます。今後大腸編も書く予定ですので、合わせてそちらも読んで頂けますと幸いです。

 

コンディションの理解に必要な小腸の解剖を簡単に

 

まずは小腸と大腸の疾患の理解にも非常に重要ですので、解剖について簡単にまとめたいと思います。ただ、解剖について理解頂いている方は、解剖に関しては読み飛ばしてください。

 

小腸の解剖についてまとめます。

小腸は十二指腸と大腸の間に挟まれ、7mほどある管腔臓器です。

 

表面積はテニスコート1面分あるとされており、栄養吸収や外界の雑菌から身を守るなど、非常に重要な役割を果たしています。

 
その中でも特に重要なのが、表面に生えている絨毛です。この絨毛が表面積を広げる役目、栄養素を最終的に消化する役目、外界の雑菌から守る役目など、多彩な役割を果たしています。

https://www.kango-roo.com/learning/1654/
 

この後述べさせていただくスポーツの腸への影響として、この絨毛の理解は欠かせないですが、難しいことはありません。「小腸の表面には絨毛が生えていて、多彩な役割をになっているがとても傷つきやすい」とだけ覚えて頂けますとありがたいです。

 

小腸のコンディション不良について

 

さて、ここからは本題の「コンディション不良」についてまとめていきます。

 

小腸のコンディション不良の原因、今回は「虚血」「薬剤」に注目します。

 

「虚血」による小腸のコンディション不良

 

まずは虚血に焦点を当てたいと思います。

重要なポイントとして
VO2maxの70%程度の運動を1時間行うと腸管血流が減少し、吐き気や下痢が出現することがある、ということが分かっています。

ここでヒトの研究ではありませんが、「ネズミを用いたある研究」をご紹介します。

 
陳 大志 1992 日本消化器外科学会雑誌
これは腸に栄養を送る血管を1時間遮断した後、ネズミの腸を取り出したものです。60min(60分血流を遮断した後という意味です)のほうが高さが低いと思いますが、これは絨毛の高さが虚血によるダメージにより、減少したことを示しています。
 

ヒトの小腸の中を実際にみてみましょう。

 

イメージしやすいようにヒトの小腸の内部を見てみたいと思います。

これが小腸の中の写真になります。表面にたくさん生えているのが絨毛です。

次に非常に重要な写真をお見せしますので、しっかりみて頂きたいと思います。

消化器内視鏡 Vol.29 No.10 2017
これは小腸内の絨毛を青い色素で染めたものです。左は正常な腸、右はダメージを受けた腸です。比較すると歴然ですね。右の写真はダメージにより絨毛がかなり少なくなっているのが分かります。

こういった絨毛へのダメージは、様々な要因で起こると考えられますが、先ほどのネズミの実験からもわかるように、虚血でもこのような変化が起きているのではないかと考えられます。

 

小腸がダメージを受けることによって?対策法は?

 

小腸の虚血そのものによって吐き気や下痢などの症状が出現することは先ほどお話させて頂きました。

 

また虚血によって、お示ししたとおり絨毛が減少することがわかっています。絨毛の非常に重要な役割として、栄養を吸収する、というものがあります。ですので、吐き気や下痢だけではなく、栄養吸収障害、例えばリカバリーに非常に大きく影響する可能性もあるのではないかと思います。

 

また運動後すぐの食事で下痢をしたり、吐き気がしたり、そもそも食欲が少なくて食べれないという方は、まずは運動後しっかり脱水の改善をして頂き、液体栄養剤の摂取から始めてみると良いかもしれません。

 

運動前に液体栄養剤を摂取することによって虚血の進行が抑えられる、という報告もありますので、できるだけ脱水にならないように注意する心がけは、非常に大切かな、と思います。

対策や改善方法は?

 

対策としてきっちり決まったものは、個人差もあるため、現状ではなかなか難しいかと思います。

ただ
虚血をできるだけ予防したり改善したりすること、つまり、負荷の前にしっかり水を取っておく、また吐き気などの症状が運動後にでる場合には負荷後にも急に固形物ををとるのではなく、しっかり脱水を補正してから固形物をとるなどの対応が必要かと思います。
 

「薬剤」などによる小腸のコンディション不良

 

続いては薬剤による小腸のコンディション不良についてです。

 

ロキソニンによる小腸のコンディション不良

 

腸のコンディション不良を起こす薬剤として有名なのは、鎮痛薬のロキソニンです。

胃潰瘍や十二指腸潰瘍を引き起こすことは有名ですが、実は小腸にも潰瘍を引き起こします。さらに注意点としては、一般的に処方される胃潰瘍のための薬も、小腸潰瘍にはあまり効果がないという報告もあり、ロキソニンを継続して飲むのには、注意が必要です。
 

もしよろしければ、以前の記事でロキソニンの腸への影響についてまとめたものがありますので、ご一読頂けますと幸いです。

腹痛・栄養吸収不良の原因にもなる!鎮痛薬「ロキソニン」のこわい副作用!

2020年1月23日
 
 

この写真のように内服後2週間経過すると、潰瘍ができる場合もあり、腹痛や下痢などといった症状が出てしまう場合もあります。

 

もちろん消炎鎮痛薬として非常に優秀な薬であることは間違いないですが、どんな薬にも副作用があることは忘れないで頂きたいと思います。

 

「血圧の薬」「グルテン」による小腸のコンディション不良

 

最後に少しだけ触れさせて頂きたいと思いますが、「グルテン」や血圧を下げる薬である「オルメサルタン」という薬でも、小腸の絨毛がダメージを受けることが知られています。

 

グルテンに関しては有名ですが、オルメサルタンによる小腸の障害に関しては「オルメサルタン関連スプルー」と言います。

 

グルテンによる体調不良やお腹の不調は、ジョコビッチ選手の件で有名となりましたが、全身の体調不良や腹部症状は小腸の絨毛萎縮も関連していると考えられます。

薬を飲むことでも同じようなことが起きるというのは、驚かれる方もいらっしゃるかもしれません。

ポイントとしては

●長期的な摂取、内服が症状を引き起こす可能性があること

●小腸がダメージを受けるので、下痢や体重減少という症状が出現し、体調不良を引き起こすこと

●グルテンや薬の内服を止めれば改善が見られること

いずれも、タンパク、もしくは薬の成分が慢性的なアレルギー反応を引き起こし、同じような機序で小腸にダメージを与えるため、非常に似たようなことが起こります。

 

若手スポーツ選手では血圧の薬を飲むことはほとんどないかもしれませんが、スポーツ愛好家では、内服している可能性があります。

 

知っておいて頂けますと、いつか役に立つかもしれません。

 

最後にまとめ

 

今回はスポーツによる小腸へのダメージについて考察しました。

 

運動自体の負荷によるもの、関連した薬、食べ物など、知らぬ間にダメージを受けています。

 

何気ないお腹の不調ですが、背景に様々な疾患が隠れている可能性もあります。

 

症状がある場合には躊躇わずに相談するようにしてください。