「ある1流プロアスリートの方が実際に経験された話」から今回の内容を始めたいと思います。
最後まで読み進めていただくことで
・アスリートは特徴的な症状を自分のせいにしがちである
・だからこそ、背景に病気が隠れているのに、診断が遅れてしまう
といった、アスリートと内科疾患の難しさを感じていただけると思います。
また、アスリートの甲状腺機能亢進症においてもっとも重要で難しいのは
「どの程度で復帰したら良いか」ということだと思います。
決まったものがないだけに非常に判断が難しいですが
私なりの考えを書いてみましたので、ご一読いただければと思います。
もくじ
トップアスリート 実際の体験談
ある競技のトップアスリートで、プロとして活躍するA選手は特にケガもなく、順調にトレーニング、試合に望んでいました。
しかし、少しずつ変化が起こりはじめます。
・トレーニング直後から軽く手や体幹が震える
・ペースを上げずに走っているのに、心拍数が増加し息切れがする
・運動中の発汗量が多くなった
・食事量は変わっていないのに、体重がどんどん減っていく
といった症状です。
負荷はあまり変わっていませんが
追い込みの時期でもあったことから
「少し疲労が溜まってきているのだろう」と考え
負荷を落としますが、症状は取れませんでした。
医療関係者の方は
「それは典型的なバセドウ病の症状でしょ」と
すでに感じていらっしゃると思いますが
もう少し読み進めてくださると嬉しいです。
近くのクリニックを受診したところ。。
手の震えや動機、息切れが改善しないため、受診をしたところ
「トレーニングをもっと減らすように」と指示され「疲労」と診断されたとのことでした。
その後も症状は改善せず。。
トレーニングを中断するのが怖かったそうで
「震えや息切れが出現したら休む」
といった形でトレーニングを継続していました。
しかし、食事、睡眠をいくら改善しても症状は取れず。

体重は10kg程度減りましたが、症状の改善が見られないため総合病院を受診、バセドウ病と診断されました。
バセドウ病とは??
バセドウ病とは
ご存知の方も多いとは思いますが
「甲状腺」という、のど仏あたりについている臓器から「甲状腺ホルモン」が過剰に分泌されることで起こる病気です。
歌手の「絢香」さんが発症されたことでも有名になりました。
・手の震えや動機、息切れ
・発汗量の増加
・食欲が旺盛で、たくさん食べるが体重は減少する
・疲れやすい、なかなか寝付けない
といった症状が有名であり
いずれもアスリートにとっては
運動量が増えた時に起こるようなことがメインの症状のため気づくのが遅れると考えられます。
治療は内服薬を飲む、ということですので
特別な治療は必要ないのですが
アスリートの場合、完全復帰までのトレーニング計画が非常に難しいです。
どのように復帰までの計画を立てるか??
復帰までの計画に関してですが、何が一番難しいかというと
「定められた方法がない」ということです。
しかし「選手の症状に合わせてその都度対応するのが良いでしょう」
と書いてしまっては、ブログで発信している意味がなくなってしまいますので
成功事例をもとに、目安となるような復帰モデルを書いてみたいと思います。
くすりの選択について学びましょう!
甲状腺機能亢進症に関しては、2つ(+α)の薬があります。
・チアマゾール(MMI)
・プロピオチオウラシル(PTU)
(場合により+ヨウ化カリウム)
若年の方で妊婦さん以外にはMMIが用いられることがほとんどですので
今回はMMIを内服しコントロールを行なったアスリートの一例を参考にし書いていきます。
重症度と容量調整
MMIに関しては
・中等症→15mg
・重症→30mg
から処方され、状況次第では「ヨウ化カリウム」という薬も合わせて処方されます。

この論文は、アスリートの方ではありませんが、典型的な減量の一例を示したものです。
MMI15mg+ヨウ化カリウム50mgが処方されており、発症後1ヶ月目でヨウ化カリウム中止、発症後2ヶ月目ではMMIの減量はありませんでした。
担当してくださっている先生によって若干薬の使い方が異なることもあるので、連携をとることが、基本的ですが、やはり大切だと感じます。
運動強度はどうしたのか?
運動強度をどうするかについては、最も難しい判断です。
今回のアスリートの方は
・発症後1ヶ月 → 完全休養
・発症後2ヶ月(ヨウ化カリウム中止のタイミング)→ 負荷50%程度の運動開始(ランニング、軽い筋トレなど)
・発症後3ヶ月 → 1週間ごとに10%ずつ強度を上げていく
この流れでコントロールを継続中です。
最初の1ヶ月は完全休養、その後徐々に強度を上げていくことになるかと思いますが、強い負荷をかけれるようになるまでに数ヶ月かかることが多いようです。
高校生の症例では、強度をあげるのが早く、再燃してしまった症例もありますので、くれぐれも焦りすぎず、担当の先生やトレーナー、チームドクターと相談していただくようお願いします。
最後に
今回は、甲状腺機能亢進症が、アスリートに発症した際にどのように考えるべきか、まとめました。
再燃すれば、その分復帰までの期間が長引いてしまいますので、大会の日程なども含めて、慎重に復帰プログラムを組むことが大切です。
今回の記事が少しでも参考になれば幸いです。