海外遠征時の消化管感染症【約半分のアスリートは下痢になる?】

海外に行くと下痢になる。

これはアスリート以外の方でも良く経験されることではないでしょうか。

アスリートではパフォーマンスに関わりますので、なおさらその管理は極めて重要です。

しかし
「細菌性かウイルス性かで対応が異なったっけな?そもそも見分けるにはどうしたらいいのかな?」「細菌性に対しては抗生物質を内服していいのかな?いけないのかな?」など対応方法が良くわからない!ということもあるかと思います。

今回はアメリカの論文や、「国内の腸炎に対する抗生物質使用の論文」を読んで

消化管感染症に対する対応についてまとめてみたいと思います。

   

海外遠征時の消化管感染症

 

今回読んだ、アメリカの論文の英語のタイトルは

「Gastrointestinal Infections in the Traveling Athlete」

となっています。

「いったいどのくらいのアスリートが海外でお腹の不調を訴えると思いますか??」

アメリカの論文ですので、日本人には当てはまらないこともあるかと思いますが、参考になる内容でしたので、まずはその論文を簡単にまとめます。

 

アスリートの消化管感染症 「感染率はどの程度か?」

先程の問題の答えになりますが、先進国から発展途上国に行く場合

半分以上のアスリートがお腹の不調(特に下痢)を訴えるとされています。

この論文では、渡航先によって、消化管感染症を発症する

リスクが低い国

リスクが中程度の国

リスクが高い国

に分けられていました。

Most of Asia」というくくりで、アジアの大半が「リスクが高い」という位置づけである中、日本は当然ですが「リスクが低い国」に分類されています。

アジア諸国は発展途上国が多いので、遠征に出かける時は注意が必要なようです。

 

さて、この後は、消化管感染症の原因、また治療について考察していきます。

非常に重要なポイントが多く含まれますので、この先を読んでいただければ

必ず消化管感染症について理解を深めていただけると思います。

 

下痢の原因になるのは細菌?ウイルス?

下痢を引き起こす原因は様々ですが、主なものは2つで、細菌性ウイルス性です。

細菌性の原因として有名なものとしては腸管出血性大腸菌O-157などで

ウイルス性として有名なものとしてはノロウイルスが考えられるでしょうか。

 

細菌性の方が高熱や血便、腹痛といった症状が強く出て

ウイルス性は嘔気、下痢といった症状が強いことが多いといった印象です。

では
「細菌性」「ウイルス性」どちらが頻度が高くて、どのように問題になるか、大体想像がつきますか?

その答えは次で解説していきますので、このまま、読み進めてください。

 

海外での下痢は「細菌性」「ウイルス性」どちらが多い?

今回の論文では、という所になりますが

細菌性が約90%、ウイルス性が約10%と言われています。

その中でも特に大腸菌が多いとされていますが、カンピロバクター、サルモネラもやはり問題となるようです。

細菌性では
発熱、強い腹痛、血便が目立ち、嘔気や下痢はやや少ない印象です。

ウイルス性では
腹痛はありますが、細菌性と異なり、嘔気や下痢が目立つ印象です。

必ずしも症状から分けれる場合は多くありませんが

ある程度参考にしていただけるかと思います。

しかしもっとも気になるのは、治療に関してではないでしょうか。

「抗菌薬は使ったほうがいいのか?使わない方がいいのか?」

「使うのであれば何を使ったらいいのか?」

次で解説していきます。

 

治療はどうしたらいいのか??

治療に関してが非常に難しいとことです。

もちろん治療としての基本は経口補水液を取ることが最重要ですし、それで改善するなら、もしくは様子がみれそうなら、それが一番です。

ここからの話は、経口補水液では少しきついかな?という時を想定して(腹痛や下痢がひどい時)、抗菌薬にもポイントをおいて考えたいと思います。

   

下痢や腹痛の症状が強い時は?

まず何より、急性虫垂炎などの致命的な病気の可能性を考えることが大切です。

ポイントとしては

・持続した腹痛ではないか(ずっと同じ痛みの強さで、強弱がないのであれば、それは要注意です。)

・限局した痛みであるか(腸炎であれば全体的に痛みがあることが多く、虫垂炎であれば、右下腹部に痛みが限局することも多いです。)

これらを確かめることが重要であり、いずれかあれば、病院受診も考慮すべき状態です。

なんとなくお腹全体が痛い、痛みに波がある、下痢もある、こういった場合には腸炎の可能性が高いと考えられますので、次の治療まで読み進めてみてください。

 

治療として抗生物質は必要か??

これに関しては正直なところ、消化器内科医でも意見が別れるところだと思います。

個人的な意見としては

症状が強い場合には細菌性の可能性もあり、抗生物質を使用すると改善が早い印象があります。数日後に試合を控えており、なるべく早く改善したい場合には、抗生物質の使用も選択肢の一つとなるのではないでしょうか。

 

また、あるガイドラインには、「腸管感染症に対して抗生物質を使う基準」として以下の項目が挙げられています。

この中にも渡航者下痢症は挙げられており、海外では「細菌性」の罹患が多いことからも、積極的に抗生物質を使用しても良いのではないかと考えます。

 

抗生物質は何を用いるのが良いか?

よく用いられるもの、有名なものとして、レボフロキサシン(クラビット)が挙げられます。

しかし

大腸菌による大腸炎にレボフロキサシンを使用すると腎機能障害を引き起こす、溶血性尿毒症症候群(HUS)という怖い病気を発症する可能性があると言われています。またカンピロバクター腸炎に対するレボフロキサシンの耐性率は40%を超えているというデータもあり、レボフロキサシンは第一選択とはならないかと考えます。

また、抗生物質の有効性や、そもそもどの抗生剤を用いるかについては、様々なデータがあり、確実なものはありません。

 

レボフロキサシンよりもホスホマイシンがおすすめ?

先ほど「レボフロキサシンでHUSという病気を引き起こす」といった内容に触れました。

そのHUSを起こしにくいのでは??言われているのが「ホスホマイシン」です。

 

しかし、「ホスホマイシンがHUSを起こしにくい」ということに関しても発表ごとに異なり、消化管感染症に対する抗菌薬治療は、なんとも難しいと感じます。

実際のところ
私の勤務先では、ホスホマイシンを使用することに関しては賛成派の先生も多く、大腸菌に対しての投与でも、現時点では問題が起こったことはありません。

「ホスホマイシン 1回1000mg 1日3回の投与」

覚えておいて損はないかと思います。

 

まとめ

本日は日常でも、また海外渡航した際にも問題になるであろう、消化管感染症について調べてみました。

基本的に経過観察で自然治癒することが多いですが、経験上、抗生物質を使った方が、早く治ることも多い印象です。

 

評価、治療が難しい領域でもありますので、困った時は、専門家への相談がとても大切になると思います。